南洋堂のお店での日々の出来事や、
本についてのあれこれなど、店員の声をお届けします。
23/03/01 Wednesday |
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3月1日
翻訳者の友人に万葉集が面白いと聞き、さっそく 現代語訳を読み始めました。世の中を分離させる 言葉遊びやそれを誤った捉え方で広める人・道具 が広まった現代におかれましては、ひとまず歌の 一つでも詠んで己の頭をリセットしてから状況判 断したいものですね。いかがお過ごしでしょうか。
今日は3月1日でマヨネーズの日なのですが、日本 初の女性一級建築士である浜口ミホ氏の誕生日で もあります。著書「日本住宅の封建性(1949)」 は、戦後日本の住宅設計論として外すことのでき ない本ですので、どこかで必ず読んでください。 彼女の生きた時代は男尊女卑・家父長制度・格式 主義がまだまだ幅を利かせており、現在とは全く 異なった次元の闘いであったことは想像に難くあ りません(もちろん現代にもその名残がそこかし こにあり、別の課題も山積みでありますが)。
ところでミホ氏は戦後日本のDK開発においてステ ンレス流し台の普及に一役買った人物としても知 られています。のちにシステムキッチンへと進化 するステンレス流し台がどれほど女性たちを精神 的・肉体的に救ったかと思うと、やはりその存在 は偉大です。そんな彼女の口癖は、「私は弱者の 悲鳴を聞く建築士。私の設計は賞はとれないよ」。 有限実行の人、素敵です。
ミホ氏自身はめったに台所に立たなかったとはい え、たまに作ると味は美味しく、飾り付けは見事 なものだったとのこと。後半部分をのぞけば彼女 とは大変気が合いそうです。
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written by SN |
22/12/29 Thursday |
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本の整理と自己形成プロセス 03
弾性力といいますか反作用といいますか、元の姿 に戻りたくなるのが自然の本能でありますが、主 を大方失いどこか寂しく見える本棚に、毎年四月 になると送られてくる大量のテキストを並べてみ たりしても何かこう、しっくりとこないものです。 やはりそこには自発的かつ自然発生的に選ばれた 本が入るべきです。それと同時に、これら本棚を 私は建築的に捉えるべきなのではないかと、はた と気がつきました。まず手始めに穿孔作業からは じめました。棚の背面に孔を開けていくと何の変 哲もない四角い棚は周囲の環境を取り込みながら 刻々と変化する様相が見えがくれ、いえ埋蔵され るに至りました。さらにその向こうには5次元空 間が広がっており、宇宙飛行士だった父が向こう から覗いているなんていうインターステラーな事 態です。いえ実際うちの父は柳田國男の孫弟子だ ったんでした。つまり本棚の向こうには、平地人 (俗物のことです)を戦慄せしめる物語が広がっ ているのです。山から里、里から家、家から本棚 と、見えないエンクロージャーが現れては消え、 その情感のこもった空間にそれ自体を文節する機 能を付け加えることにしました。続く
さて、本年もお付き合い頂きありがとうございま した。どんな年だったかと振り返ると新しい発見 が色々とあったような気がします。それを来年に 活かす準備として年末はじっとしていようと思い ます。 皆様もどうぞ良いお年をお迎えくださいませ。
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written by SN |
22/11/18 Friday |
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本の整理と自己形成プロセス 02
とはいえ温暖化の気配が漂う秋の訪れと、無職で あれば迷わずハイキングに繰り出したくなるよう な晴天を満喫している日々ではありますが、いか がお過ごしでしょうか。
そうこうしているうちに、配送業者が悲鳴をあげ るに違いない重さと大きさの箱が40箱ほど出来 上がりました。そのうち10箱ほどは南洋堂行きと なります。自分がこんなにも建築の本を持ってい た事実に驚きを隠せません。また建築書の選り分 け作業に際して特に興味深かったのは、この人の 本は取っておこう、という対象の中には意外な人 物が含まれていたりすることです。自身の深層に ある心持は、実はそれほど表面化されていないも のなのだなァ、とここでまた一つ教訓を得ること ができました。
今回の整理では興味の対象を絞り込んでいるつも りが、実際そう簡単にはいきません。「一応とっ とくか」という新たな壁、心の隙間、要するに己 の弱さを露呈する瞬間が頻繁に訪れるのです。こ の「一応」という小悪魔の所業により、捨てるは ずだった本棚の一つが埋まってしまったほどです。 新たなブックライフステージへの道は、白黒つけ られない(人間味あふれる)様相を見せながら、 スタートを切ることになりそうです。 つづく
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written by SN |
22/11/05 Saturday |
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本の整理と自己形成プロセス
無情にも冬の訪れを予告されているような肌寒い今 日この頃ですが、いかがお過ごしでしょうか。 私めといえば最近、30年ぐらい溜め込んだ本の整理 をすることに決めました。するとどうでしょう。 人生の折り返し地点ともとれる年齢となったところ でのこの決断は大変に功を奏する気がしています。 なぜなら、本の整理はこれまでの志向/思考の軌跡 を振り返ることそのものだからであります。これを 終えたら次のブックライフステージへと向かうわけ で、それは新たな自分との出会いであります。 何もかもを貪欲に受け入れようとしていたこれまで の人生も悪くはありませんでしたが、この決断によ ってより明確な自己とその向かう道(精神的な)が 得られるような気がして、それはまるで一ページ目 の数行を読んで良い本だと確信できた時のような、 うれしい予感に満ち満ちています。 しかしながら、悪癖である本のカバーを取り外す行 為は効率的にまったく功を奏しているとはいえませ ん。もはや何冊とも数えられない本のカバーと裸本 をマッチさせる段階でその作業に永遠性を見ました。 命からがらその永遠が終わったところで、カバーの みが残っていたり、裸本だけが残っていたりする惨 状を目の当たりにしました。何事も、どうしても相 容れない関係性があるものだなァ、そんな教訓をひ とまず得たところです。 つづく
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written by SN |
22/09/14 Wednesday |
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TP
真夏のような日差しと秋の訪れを告げつつある風が 交互にやってきていかにもな九月も半ばとなり、気 分一新とまではいきませんが新しい特集をはじめよ うという気分にもなったもので、いかがお過ごしで しょうか。
今回のテーマは「アーツ・アンド・クラフツ」。 結局のところジョン・ラスキンからのウィリアム・ モリスという王道すぎる流れに相成りました。 ミニマルな生活スタイルが流行ったこともありま したが、その一方で只のトレンドで終わらなそうな 「ロングライフデザイン」が息づく今日の状況を顧 みますと、人間らしい生活(ひいてはその妥協点) を考えさせられます。アーツ・アンド・クラフツ運 動の凄みは、当時のグローバル展開(もちろん英国 内も)、そしていつの時代にもそこに立ち戻りたく なるような理念のその永続性ではないでしょうか。 後の歴史を知れば知るほど、これはきっかけの一つ に過ぎなかったのか?それとも、「現代的なるもの」 の何もかもがここから始まってるのか?と謎が謎を 呼ぶ迫力満点の展開となってくるのであります。ひ とつのアイデアが散らばり、それを受け取った人々 に取り込まれ、一部を採用されたり、それに抵抗さ れたり、なんだか独自すぎる事になったりと、行く 先々で起こるドラマがいまのデザイン・建築に繋が っているのだと思うと胸が熱くなる思いであります。
なんていってたら、こういう展覧会が始まるような ので、チェックしにいこうかと思います。
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written by SN |
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